北方領土問題が未解決であることに起因する諸問題とその対策

北方領土問題が未解決であることに起因する諸問題とその対策

(1) 旧漁業権に対する措置
 北方地域には、1945年(昭和20年)8月15日現在で、専用漁業権9件、定置漁業権1,369件、特別漁業権77件の旧漁業権と入漁権7件が存在していました。しかし、これら旧漁業権は、1946年(昭和21年)1月29日付け連合軍総司令部覚書による行政分離措置によって、北方地域に我が国の法令が適用されなくなったため、この時点で消滅したものと解されています。そのため、1950年(昭和25年)3月に、漁業生産力の発展と民主化を目的とする新漁業法の施行に伴って行われた旧漁業権に対する補償措置は、北方地域には講ぜられませんでした。
 政府は、このような北方地域の特殊事情を考慮して、1961年(昭和36年)に北方協会(現:北方領土問題対策協会)へ基金10億円を交付し、北方地域旧漁業権者等に対して生活資金と事業資金の低利融資の措置を講じています。
(2) 北方領土隣接地域安定振興対策
 北方領土に隣接する根室地域は、1945年(昭和20年)の終戦まで北方領土と一体の経済圏を構成していましたが、北方領土問題が未解決であることから地域社会の発展が阻害されるという特殊事情に置かれています。1980年(昭和55年)11月14日の閣議において内閣総理大臣から「政府としては、根室地域に対する国の支援の姿勢を明確に示すことが緊要である」との発言があり、これを受けて、北方領土返還運動の一層の促進を図り、返還運動の拠点であるこの地域の活力の維持発展、地域の安定等を図るため、国土交通省北海道局を中心に関係10府省で構成される「北方領土隣接地域安定振興対策等関係府省連絡会議」が設置されました。1981年度(昭和56年度)予算から、地元北海道の要望を踏まえ、これらの地域の振興にかかる国の直轄・補助事業の重点配分を考慮しています。
 また、北方領土問題等の解決の促進のための特別措置に関する法律(昭和57年法律第85号)に基づき、「北方領土問題等の解決の促進を図るための基本方針」が定められ、北海道知事により「北方領土隣接地域の振興及び住民の生活の安定に関する計画」が策定されました。
 この振興計画に基づいて、隣接地域の市・町が実施する国庫補助事業のうち、政令で定める事業に対して国庫補助率のかさ上げ措置をとることとしており、この措置は行革特例法に定める期間(昭和57年度~昭和60年度)の終了に伴い、1986年度(昭和61年度)事業から実施されています。
 さらに、前述の特別措置法に基づいて1983年度(昭和58年度)に北海道が設置した北方領土隣接地域振興等基金に対し、その造成費の一部を補助しており、この運用益は隣接地域の市・町が実施する国庫補助対象外の事業、北海道内の公共的団体が実施する事業に要する経費の一部補助に充てられています。
(3) 北方領土隣接地域振興等基金の造成
 北方領土問題等の解決の促進のための特別措置に関する法律(昭和57年法律第85号)に基づき、1983年(昭和58年)に北海道に地方自治法上の基金として北方領土隣接地域振興等基金が造成されました。立法当時、法律が定める5年の造成期間内(昭和58年度から昭和62年度まで)に100億円(国が80億円、北海道が20億円を負担)を確保することを想定していましたが、厳しい財政事情の下で困難となり、議員立法によりさらに5年間延長されました。100億円基金の早期実現について地元の強い要望もあり、1991年度(平成3年度)予算において10億円が計上されたことにより、延長後の法律に定める期間より1年早く、目標額の100億円が達成されました。
 この基金の運用益は、北方領土問題が未解決であることによる特殊事情に起因する諸問題の解決に資するため、北方領土隣接地域の市・町又は北海道内の公共的団体が行う国の補助を伴わない(1)振興計画に基づく事業(2)北方領土問題等についての世論の啓発に関する事業(3)北方地域元居住者の援護等に関する事業に要する経費の一部補助に充てられています。
 1. 北方領土隣接地域 根室管内1市4町
・根室市、別海町、中標津町、標津町、羅臼町
 2. 基金造成 昭和58~平成3年度:100億円
(国:80億円、北海道:20億円)
 3. 基金対象事業 ・隣接地域の振興及び住民の生活の安定事業
・北方領土問題についての世論の啓発事業
・元島民の援護等に関する事業
(4) 地図、教科書、地方交付税等における北方領土の取扱い
1  北方領土問題は全国民的な重要問題であり、学校教育においても児童生徒の発達段階に応じて、日本国有の領土としてロシアに四島の返還を求めていること等日本が主張している立場に基づいて的確に扱う必要があります。そのため文部科学省は、我が国の領域としての北方領土の位置、構成を明示するとともに、我が国は固有の領土としてロシアに対し返還を求めていること等を明らかにするよう、教科書検定に当たっては特に配慮しています。
2  学校の教科書として用いる地図帳で領土の範囲を色別等によって区別する場合は、(1)四島は日本本土と同一色で表示する。(2)国際法上、帰属未定地域である千島列島及び北緯50度以南の樺太は白地(地色)とする。また、領土の範囲を国境線等によって区別する場合は、(3)択捉島と得撫島との間(4)占守島とカムチャツカ半島のロパトカ岬との間(5)北海道宗谷岬と樺太南端との間(6)樺太の北緯50度の線にそれぞれ国境線を入れることとしています。
3  国土地理院は、1969年度(昭和44年度)からその刊行する地図に北方領土を順次掲載することとしました。一方、1968年度(昭和43年度)から全国都道府県市区町村別面積調においても、北方四島の面積を日本の面積に含めて表示し、1972年度(昭和47年度)からは北海道の面積に含めて表示することとしました。
 また、北方四島の面積は、1969年度(昭和44年度)から北海道に対する普通交付税の算定の基礎として用いられることとなりました。(歯舞群島の面積については、1959年(昭和34年)4月に旧歯舞村と根室市が合併したので、同年度から北海道及び根室市に対する普通交付税の算定の基礎とされています。)
4  1989年度(平成元年度)の学習指導要領の改訂に際しては、北方領土問題の重要性、特に義務教育における北方領土問題の学習の重要性にかんがみ、文部科学省は、北方領土問題について指導が明確に行われるための措置として、小学校4年生の社会科で「国土の位置の指導については、我が国の領土と近隣の諸国を取り上げるものとすること」、また中学校の社会科で「領域の特色と変化については、北方領土など我が国の領域をめぐる問題にも着目させるようにすること」と明記しました。
5  1998年度(平成10年度)の学習指導要領の改訂に際しても、小学校5年生の社会科で「国土の位置の指導については、我が国の領土と近隣の諸国を取り上げるものとすること」、また中学校の地理的分野で「北方領土が我が国の国有の領土であることなど我が国の領域をめぐる問題にも着目させるようにすること」と明記されました。
(5) 北方地域所在の不動産の相続に関する取扱い
 北方領土の元居住者が北方領土に残した不動産については、現在、北方領土がロシアの不法占拠下に置かれており、これらの不動産の現状を日本の法務局職員等によって確認することはできないため、不動産登記手続をとることは事実上不可能となっています。
 しかし、北方領土は日本固有の領土であり、日本に返還されるべき地域であることから、返還された後における登記事務の再開に備えて、北方領土に所在する不動産の所有名義人に関する相続関係を明確にしておくのが適当です。そのため法務省は、「北方領土地域に所在する不動産の所有名義人の相続に関する暫定的取扱いについて」という通達を発出し、1970年(昭和45年)5月1日から釧路地方法務局根室支局において、北方領土に所在する不動産について従前の登記簿又は台帳に記載されている所有名義人に関して相続の申出がなされたときは、これを所定の用紙に登載して相続関係を明確にしておく措置をとっています。
(6) 北方地域の本籍に関する取扱い
 北方領土は日本固有の領土であり日本に返還されるべき地域であるため、返還が実現するまでの間も、北方領土に本籍を置く者について戸籍事務を行うことができるようにするため、北方領土問題等の解決の促進のための特別措置に関する法律(昭和57年法律第85号)第11条において、「戸籍事務は、法務大臣が北方領土隣接地域の市又は町の長のうちから指名した者が管掌」し、「住民基本台帳法(昭和42年法律第81号)第9条第2項の規定による通知及び同法第3章に規定する戸籍の附票に関する事務は、総務大臣及び法務大臣が北方領土隣接地域の市又は町の長のうちから指名した者が管理する」こととされました。
 これに基づいて総務大臣及び法務大臣が根室市長を指名し、1983年(昭和58年)4月1日から、北方領土に本籍を有する者についての戸籍事務を行うことが可能となり、根室市長に届け出をすることにより他の日本国内と同様に、北方領土を自由に本籍地として選定する道が開かれました。
 なお、1959年(昭和34年)に歯舞村(歯舞群島)は根室市に編入されていますので、この措置は、色丹島、国後島及び択捉島を対象としたものとなっています。
(7) 北方地域への入域問題について
 ソ連(現:ロシア)の発給する査証により実際に北方領土に入域することはもとより、北方領土への入域のためにソ連に対して査証申請を行うこと自体が、北方領土への入域に関しソ連の管轄権を前提とした行為、またはソ連の管轄権の行使に服した行為となるため、政府は、1989年(平成元年)9月19日に閣議了解「我が国国民の北方領土入域問題について」を行い、日本国民に対して北方領土にソ連の査証を取得して入域することを控えることを要請しました。
 現在は、墓参四島交流自由訪問に限って、北方領土への入域が認められています。

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